説明会でいちばん多くいただく質問は、たぶんこれです。
「これは、ゲームをしているだけではないのですか」
当然の質問だと思います。私たちが運営しているのは、Minecraftを使ったオンラインの不登校支援・発達支援です。画面に映っているのは、子どもがブロックを積んだり、洞窟に潜ったりしている様子です。外から見れば、遊んでいるようにしか見えません。
これまで私たちは、この質問に考え方で答えてきました。好きなことだからこそ自分から参加できる、その中で選ぶ・工夫する・人を頼るという場面が生まれる、と。間違ったことを言っているつもりはありません。ただ、それは「私たちがそう考えている」という話であって、実際にそういう場面が起きているという証拠ではありませんでした。
そこで、自分たちの記録を読み返してみることにしました。
不登校支援は増えた。でも、発達支援の視点はほとんど入っていない
文部科学省の調査では、2024年度の小・中学校の不登校児童生徒は353,970人。12年連続で増え、過去最多になりました。それに合わせて、民間のフリースクールやオンラインの居場所も、この数年で一気に増えています。選択肢が増えたことは、間違いなく良いことだと思っています。
ただ、私たちが現場で毎日向き合っているのは、もう少し込み入った状況です。
学校に行けなくなった背景に、発達の特性が関わっているお子さまは、少なくありません。音や光がつらい。書くことに人一倍の労力がかかる。集中が続かない。人との距離のとり方がわからない。こうしたことが少しずつ積み重なって、教室にいることそのものが難しくなっていく。
ところが、いま増えている不登校支援の多くは、「居場所」と「学習」を用意するものです。それが不要だという話ではまったくありません。ただ、発達アセスメントにもとづいて個別の支援計画を立て、その子の特性に合わせて環境そのものを組み替えるという発達支援の専門性まで備えているところは、私たちが知る限りごくわずかです。
そうなると、何が起きるか。居場所には通えるようになったのに、そこでも同じ困りが起きる。学習支援を受けているのに伸びない、と思ったら、原因は書字や集中の特性のほうだった。そういうことが起こります。不登校という結果のほうに手当てをしても、その手前にある特性が手つかずのままだからです。
私たちの出発点は、不登校支援ではなく発達支援でした。代表理事は児童発達支援事業所と放課後等デイサービスの起業・運営を経験しており、法人としても療育や保育の専門職に向けた研修・第三者評価の事業を続けています。SUPER SCHOOLとGLOBAL GAMEに発達アセスメントと個別支援計画があるのは、そのためです。ここが、私たちがいちばん力を入れている部分です。
そして、もうひとつ課題があります。こうした支援には、確かめる材料がほとんどないということです。
公的な効果検証の枠組みはなく、各事業者が出すのは、たいてい満足度や体験者の声です。それが嘘だとは思いませんが、「うちの子に合うのか」を判断する材料にはなりにくい。私たちも、その状況をつくっている一員です。
だから、まずは自分たちの手元にあるものを開いてみようと考えました。
私たちが毎回残しているもの
SUPER SCHOOLとGLOBAL GAMEでは、活動が1回終わるごとに、担当のフレンド(支援者)が記録を書きます。
- 今日の目標
- 何をしたか
- お子さまがどんな発言や行動をしたか
- 次回の目標・タスク
決まった選択肢を選ぶ形式ではなく、自由記述です。書く人によって濃さに差が出るのが弱点ですが、その代わり、選択肢では拾えないものが残ります。お子さまが自分から言った一言、手が止まった場面、いつもと違う進め方。そういったものです。
この記録が、2025年2月からの19ヶ月で2,557件になりました。
分析できる記録だけを、分析した
まず最初にやったのは、記録をふるいにかけることでした。
自由記述なので、「マイクラサバイバル」の一言で終わっている日もあります。そういう記録から本人の行動を読み取ることはできません。そこで、全2,557件を3つに分けました。
| 区分 | 内容 | 件数 |
|---|---|---|
| A(詳細) | 本人の発言・具体的な行動・やり取りが十分に記録されている | 1,224件 |
| B(分析可能) | 具体的な発言または行動の記述がある | 785件 |
| C(情報不足) | 活動内容のみ等で、行動の判定が難しい | 548件 |
行動の分析に使えるのは A+B の2,009件(78.6%)でした。
ひとつ、はっきり書いておきたいことがあります。Cは「その日、何も起きなかった」という意味ではありません。記録の書き方によって判定できなかった、という区分です。実際にはその日も活動があり、お子さまの反応もありました。書き手の問題を、子どもの問題として数えるわけにはいきません。
なお、担当フレンドと1対1で行う個別活動(私たちは「こカツ」と呼んでいます)の記録に限ると、1,629件(92.7%)が分析可能でした。1対1の時間は、お子さまの言葉や動きがそのまま記録に残りやすいのだと思います。

何を見ているのか
私たちは、自己決定理論(Self-Determination Theory)という考え方をもとに支援を組み立てています。人が自分から動きたくなるには、次の3つが満たされている必要がある、という理論です。
- 自律性 ── 自分で選ぶ・決める・意思を伝える
- 自己有能感 ── できそう・できた・工夫すればできる
- 関係性 ── 安心できる人とつながる
ここで大事なのは、この3つを子どもに「身につけさせる」のではない、という点です。私たちの役割は、3つが満たされる環境をつくることです。だから活動の内容も、その子とその日に合わせて変えます。今日は冒険、今日はひとりで建築、今日は話したくない、今日は勉強してみる。どれでもかまいません。
そのうえで、分析可能な個別活動の記録1,629件を読み、この3つに該当する場面がどれくらい書かれているかを数えました。
わかったこと① 記録の67.7%に、3要素のどれかがあった
| 要素 | 記録に明示されていた割合 |
|---|---|
| 関係性 | 46.8% |
| 自己有能感 | 29.0% |
| 自律性 | 22.7% |
| いずれかが明示された記録 | 67.7% |
いちばん多かったのは「関係性」でした。これは実感と合っています。マイクラで並んで動いているだけの時間にも、「ありがとう」「どういたしまして」が自然に行き交います。素材を分けたり、迷った相手を迎えに行ったり。人と関わる練習をしようと構えなくても、協力しないと進まないゲームだから、勝手にそうなる。
逆にいちばん少なかったのは「自律性」でした。自分から「これをやりたい」と言えるようになるまでには時間がかかる、ということだと受け止めています。
ここも先回りして書いておきます。この67.7%は「67.7%の子どもに効果があった」という意味ではありません。記録という言葉のうえに、その場面が書かれていた割合です。

67.7%は、高いのか、低いのか
この数字は、受け取り方が分かれると思います。「3回に2回も表れているのか」と読む方もいれば、「3割強には表れていないのか」と読む方もいるはずです。
私たちは、この67.7%を天井ではなく、床に近い数字だと考えています。理由は3つあります。
1つめは、記録が評価ではないことです
担当者は「今日は自律性が見られた」と書こうとして記録しているわけではありません。今日の目標、やったこと、お子さまの発言や行動を、見たまま書いています。3要素に当てはまるかどうかの判定は、19ヶ月分がたまったあとで、私たちが読み返して行いました。つまりこの割合は、狙って積み上げた数字ではありません。もし毎回「今日の3要素」をチェックする欄を設けていたら、確実にもっと高い数字が出ていたはずです。
2つめは、うまくいっている日ほど、書かれることが少ないことです
記録の筆は、どうしても特筆すべきことに向きます。落ち着いて建築を進めて、いつもどおりの時間に終われた日は、「拠点の続きをした」の一行で終わることがあります。そういう日は、行動の記述はあっても3要素の場面としてはカウントされません。
つまりこの割合は、支援がうまくいかなかった日ではなく、むしろ平穏な日によって押し下げられている面があります。3要素が書かれていなかった約3割の記録の中には、静かに安定していた時間がかなり含まれているはずです。安定して通えているお子さまほど、数字の上では見えなくなります。
3つめは、見えている窓が1つしかないことです
この記録に入っているのは、週1〜2回・1回60分の活動の中で、担当者から見えた範囲だけです。家庭での様子、学校での様子、保護者さまが気づかれた変化は、一切入っていません。実際には説明会や個別相談で「家で自分から話すようになった」と伺うことがありますが、それは今回の分母にも分子にも入っていません。
その1つの窓から見て、しかも事実だけを書いた記録の、3回に2回。選ぶ・工夫する・人と関わるという場面が、そこに残っていました。私たちはこれを、低くない数字だと受け止めています。
ただし、以上は数字の読み方についての私たちの解釈であり、検証したものではありません。逆の読み方も成り立ちます。
わかったこと② 続けている中で、増えていた姿
もうひとつ調べたのは、時間による変化です。
継続して利用しているお子さまのうち、分析できる記録を十分に持つ26名について、その子の最初の25%の記録と直近25%の記録を比べました。
| 見ていた行動 | 最初の25% | 直近の25% | 差 |
|---|---|---|---|
| 自己表現(「こうしたい」を伝える) | 11.4% | 16.9% | +5.5pt |
| 問題解決・試行錯誤 | 12.2% | 16.4% | +4.2pt |
| 自己調整(うまくいかないときに立て直す) | 2.1% | 5.6% | +3.5pt |
続ける中で、「自分で考える・伝える・立て直す」姿が増える傾向が見られました。
ただし、これは記録に現れた頻度の変化です。活動が原因でこうなったと断定はできません。学年が上がったこと、担当者との関係が深まったこと、担当者の記録の書き方が変わったこと ── 他の要因も十分に考えられます。
数字の先にあったこと
私たちにとって大切だったのは割合ではなく、記録を読み返していて気づいた「変化の型」でした。似たような移り方が、何人ものお子さまの記録に、時期をずらして現れていました。
「やって」から、困っていることを説明して助けを求めるへ
はじめは「やって」「わからない」だけだったのが、何にどう困っているのかを言葉にして伝えられるようになる。
「できた」から、「どうすればできる?」へ
できた結果を見せてくれる段階から、手順を自分で考え、自分で調べる段階へ。
「終わりたくない」から、「これを作ったら終わりにしよう」へ
終わりの時間が来ると崩れてしまっていたのが、自分で区切りを決められるようになる。
「一緒に遊ぶ」から、「自分のことを話す」へ
活動を並んでするだけだったのが、そのあいだに自分の話が混じるようになる。
どれも、支援の成果として胸を張れるほど大きな出来事ではありません。でも、「マイクラで遊んでいるだけ」では起きないことだとは思っています。
そして、この4つはいずれも、私たちが教えたことではありません。環境が整ったときに、その子の側から出てきたものです。だから私たちの仕事は、教えることではなく、環境を整えて待つことなのだと考えています。
言えること、言えないこと
数字を出す以上、境界線もはっきりさせておきます。
言えること
- 2,557件すべてを、担当者が1回ごとに書き残している
- そのうち78.6%は、本人の行動が読み取れる密度で書かれている
- 分析可能な個別活動記録の67.7%に、私たちが大切にする3要素のいずれかが書かれていた
- 続けている26名では、自分で考える・伝える・立て直す姿の記述が増える傾向があった
言えないこと
- 「◯%のお子さまに効果があった」という効果率
- 活動が原因でその変化が起きた、という因果関係
- 他のサービスと比べて優れている、という比較
- 心理検査や臨床試験にもとづく測定結果であること(これは探索的な分類です)
対象は当法人を利用されているお子さまに限られ、規模も大きくありません。ここで見えたことが、他の場や他のお子さまにそのまま当てはまるとは考えていません。

それでも公開する理由
こう書き並べると、「結局あまり言えていないじゃないか」と思われるかもしれません。実際、そのとおりです。
それでも公開するのは、数字そのものより、「毎回記録して、それを読み返して支援を見直している」という事実を知っていただきたいからです。私たちにとって記録は、成果を測るためのものではなく、次の1回をどう組むかを考えるための材料です。今回はその材料をまとめて読み返しただけで、新しい検査をしたわけではありません。
同時に、この分析には粗さがあります。分類は私たちが自分たちの記録に対して行ったものですし、記録の質は担当者によってばらつきます。比較対象もありません。そういう弱点も含めて出しておけば、同じ領域の方が「うちならこう分析する」と考えるきっかけになるかもしれない、とも思っています。批判の材料にしていただいてかまいません。
支援の現場では「よくなった」という言葉がよく使われます。私たちも使ってきました。それが何を指しているのか、少しでも具体的にしていきたいと考えています。
おわりに
この記事の内容は、保護者さま向けの活動説明会でもお話ししています。説明会では、記録の実物に近い形をお見せしながら、ご質問にその場でお答えしています。数字の読み方も、文字よりお話ししたほうが正確に伝わると思います。
お子さまの様子に合わせて、無料の体験活動もご用意しています。Minecraftをやったことがなくても、顔や声を出さなくても大丈夫です。まずは一度、様子を見にきていただければうれしいです。
- SUPER SCHOOL(不登校のお子さま向け/発達支援×オンラインフリースクール)
- GLOBAL GAME(発達支援を希望されるお子さま向け/Minecraft × マンツーマン)
分析の概要
対象期間:2025年2月〜2026年8月(19ヶ月)/対象記録:2,557件/集計日:2026年8月
本人の具体的な発言・行動・やり取り等が確認できるA・B記録のみを行動分析の対象としています。割合は自由記述に明示された行動を探索的に分類したものであり、心理検査や臨床試験による効果測定ではありません。継続児の比較は、分析可能な記録を十分に持つ26名を対象に、最初の25%と直近25%の記録を比べたものです。本記事には、個別のお子さまのエピソード(発言の引用・学年・具体的な場面)は掲載していません。記述はいずれも記録全体から見えた傾向です。
特定非営利活動法人ここのば