【児童発達支援 開業】市場動向と参入の好機:発達障害児支援ビジネスの今

児童発達支援事業所 事業所支援

日本における発達障害児の増加とマーケット規模

日本では少子化が進む一方で、発達障害のある子ども(発達障害児)の数はむしろ増加傾向にあります。文部科学省の調査によれば、通常学級に在籍し学習面や行動面で特別な支援を必要とする児童生徒の割合は2012年時点で6.5%でしたが、2022年には8.8%に達しています。クラスに換算すると、10年前は1クラスに2人程度だった発達障害の可能性がある子どもが、現在では3人に増えている計算です。また厚生労働省の全国調査(令和4年)では、医師から発達障害と診断された人の推計数が約87.2万人に上り、前回調査(平成28年)の約48.1万人からほぼ倍増しています。このように発達障害児の潜在的な数は増加の一途を辿っており、支援ニーズの拡大につながっています。

こうした背景から、発達障害や発達の遅れを持つ子どもを支援するためのサービス需要は年々高まっています。実際、児童発達支援など障害児通所支援サービスを利用する子どもの数は急増しており、市場規模も拡大しています。厚生労働省のデータによると、令和4年度時点で障害児通所支援サービス全体の利用児童数は約45.7万人にのぼります。内訳を見ると、就学前の子どもを対象とする児童発達支援は約15.1万人(平成24年度比3.2倍)、学齢期の子ども向けである放課後等デイサービスは約30.6万人(平成24年度比5.7倍)と、いずれも過去10年で利用者数が大幅に増えています。特に放課後等デイサービスの利用拡大が顕著で、平成24年度から令和2年度にかけて利用児童数が約7.8倍に増加したとの報告もあります。このように市場全体として発達障害児支援の需要は拡大の一途を辿っており、今後も増加し続けると予測されています。

児童発達支援事業所数の推移と競合分析

需要の拡大に合わせて、児童発達支援事業所(障害児通所支援事業所)の数も全国的に増加しています。平成24年の児童福祉法改正で制度が整備されて以降、新規参入が相次ぎ、直近約10年間で事業所数は飛躍的に増加しました。厚生労働省の調査によれば、2014年(平成26年)から2019年(令和元年)にかけて、0~6歳児1,000人当たりの児童発達支援事業所数は多くの都道府県で倍以上に増加しています。例えば東京都では平成26年時点の児童発達支援事業所が187か所だったのが、令和元年には430か所に増加するなど、都市部を中心に事業所数が大幅に拡大しました。この結果、都市部では子どもが身近な地域で療育を受けられる環境が整いつつあります。

一方で、地域による事業所数の偏在も指摘されています。人口あたりの事業所密度を比較すると、都道府県間で約4倍もの開きがあるのが現状です。2019年時点で人口1,000人あたり児童発達支援事業所数が最も多い県では1.21か所だったのに対し、最も少ない県では0.30か所にとどまっています。この地域差は、地方部における事業所数の不足を意味し、特に地方や過疎地域では未だ支援拠点が不足している可能性があります。また、放課後等デイサービスを含めた障害児支援事業全体で見ても、都市部に事業所が集中する傾向が強く、一部地域では利用希望に対して受け入れ先が足りないという指摘もあります。逆に都市部では事業所の乱立による競争激化も見られ、サービスの質や特色での差別化が課題となっています。

この競合環境の中で成功するには、出店エリアの市場調査と差別化戦略が重要です。自治体が障害児支援を強化している地域では新規開業のチャンスが多い反面、既存事業所が多いエリアでは競争が激しいため、他事業所にはない専門性やサービスモデルを打ち出すことが求められます。例えば、重症心身障害児や医療的ケア児への対応ができる事業所、保護者支援プログラムが充実した事業所、学校や他の福祉サービスとの連携体制が強い事業所など、特色づくりによって利用者から選ばれる存在になることが大切です。競争は激化していますが、それでもなお市場全体のニーズに対して供給は追いついておらず、特に不足が指摘される地域や分野では参入の余地が十分に残っていると言えるでしょう。

児童発達支援事業の収益構造と経営のポイント

児童発達支援事業の収益は、公的な給付金と利用者の自己負担によって成り立っています。サービス利用料の大部分(原則9割)は「障害児通所給付費」という形で国や自治体から支給され、残りを利用者(保護者)が負担する仕組みです。この公費負担による報酬制度が整備されているおかげで、一定の基準を満たす事業所であれば安定した収益を確保できます。報酬(給付費)の単価は厚生労働省が定める障害福祉サービスの報酬基準によって決まり、提供するサービスの種別や時間、児童の状態(例:医療的ケアの有無)などに応じて細かく設定されています。例えば児童発達支援では、1日の支援提供時間が長い場合に基本報酬単価が高くなる区分が設けられており、短時間コースより長時間コースの方が1人当たりの収入は増えます。

さらに、一定の条件を満たすことで各種の加算報酬を受け取ることも可能です。加算の種類は多岐にわたり、例えば「児童指導員等加配加算」(手厚い職員配置を行った場合の加算)や「延長支援加算」(長時間の延長支援を提供した場合の加算)などがあります。他にも、専門職(作業療法士や言語聴覚士等)の配置による加算、計画相談支援等との連携加算、施設の衛生管理体制に関する加算など、質の高い支援や柔軟なサービス提供を行うほど報酬が上乗せされる仕組みになっています。事業所経営者にとっては、これら加算要件を積極的に満たすことで収益性を高める余地があります。

一方、収益構造の安定性と引き換えに、運営コストもしっかり考慮する必要があります。主な経費は人件費(児童発達支援管理責任者や児童指導員など有資格スタッフの給与)、施設維持費(テナント賃料や光熱費)、送迎車両等の費用、および教材・消耗品費などです。中でも人件費は総コストの大部分を占める傾向にあり、経験豊富な人材を確保しつつ人件費率を適正に管理することが利益確保のポイントとなります。また、障害福祉サービス事業には一定の人員配置基準や設備基準があり、例えば児童発達支援管理責任者を欠けば報酬が減算されるなど運営上のペナルティもあります。したがって、必要な基準を満たした上で無駄なコストを省き、効率的な運営を図ることが経営上不可欠です。

厚生労働省の経営実態調査によれば、児童発達支援事業所の平均的な収支差率(利益率)は約5.8%と報告されています。障害福祉サービス事業全体の平均利益率(5.3%)よりやや高く、適切に運営すれば黒字を確保できる事業と言えます。実際には地域や定員、提供サービス内容によって収益状況は異なりますが、多くの事業所で概ね数%~二桁前半程度の利益率を維持しているようです。なお、初期開業資金については物件取得費や改装費、人件費の準備金などで数百万円規模が必要になりますが、自治体や関係団体による開業支援の補助金・助成金制度を活用できるケースもあります。また、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の融資制度など低利の公的融資も利用可能で、資金調達面でのバックアップも得られます。公費による収入が事業収入の大半を占め、債権回収リスクが低い点は本事業の大きなメリットであり、経営努力次第で比較的安定した収益が期待できるビジネスだと言えるでしょう。

今後の制度的支援の見通しと障害福祉政策の方向性

児童発達支援事業を取り巻く政策環境も、今後さらなる追い風が期待されています。政府は「共生社会の実現」や「こども家庭政策の充実」を掲げて障害児支援の強化に取り組んでおり、その象徴として2023年4月にデータ統括組織としてこども家庭庁が発足しました。こども家庭庁の設立により、これまで厚生労働省や文部科学省など縦割りだった子ども施策が一元化され、障害の有無にかかわらずすべての子どもの支援を「こどもまんなか」に考える体制が整えられました。政府は同年12月、「こども大綱」や「はじめの100か月の育ちビジョン」といった基本方針を閣議決定し、乳幼児期から切れ目のない支援を提供する重要性を強調しています。特に人生最初の100か月(約8年間)に当たる乳幼児期の支援充実は、発達障害児の早期療育にも合致する方針であり、今後はこの分野への政策的な注力が一層進む見通しです。

制度面でも、児童発達支援に関する法制度のアップデートが続いています。2022年には児童福祉法等の改正法が成立し、2024年4月に施行されました。この改正では、地域の中核的支援拠点である「児童発達支援センター」の位置づけが明確化され、従来分かれていた福祉型児童発達支援と医療型児童発達支援の一元化などが図られました。これにより、重症心身障害児を含む様々なニーズに一体的に応えられる事業所形態が可能となり、事業者にとっても柔軟なサービス提供がしやすくなっています。また、障害児支援の質を高める観点から報酬体系の見直しも行われました。2024年度の障害福祉サービス報酬改定では、児童発達支援・放課後等デイサービスについて提供時間区分の新設や延長支援の評価見直しが行われ、質の高い支援や長時間の受け入れに手厚い報酬が支払われるよう調整されています。さらに職員配置や専門人材の加配に対する加算の充実なども盛り込まれており、事業者が適切に投資・運営すれば報われる仕組みが強化されています。

今後の障害福祉政策の方向性としては、地域格差の是正と支援の質向上がキーワードになると考えられます。厚生労働省の検討会報告書でも、都市部と地方部で支援資源に偏りがある現状や、一部事業所における質確保の課題が指摘されました。これを受けて、行政は地域ニーズに応じた事業所開設の促進策や、人材育成・質の担保に向けたガイドライン策定(※令和6年7月に児童発達支援ガイドライン公表)などを進めています。また、教育現場との連携強化も重要テーマで、文部科学省はインクルーシブ教育システムの下、学校と福祉の協働による支援体制整備を推進中です。こうした政策的支援は事業者にとって追い風であり、国・自治体からの助成金や補助金の充実、研修機会の提供など直接的なバックアップも今後拡大していくことが見込まれます。最新動向を常にキャッチアップし、政策の恩恵を最大限に活用することで、児童発達支援事業の経営リスクはさらに低減し、安定性が増すでしょう。

まとめ:今、児童発達支援事業の開業に参入する価値が高い理由

以上の市場・競合・制度の分析から、児童発達支援事業所の開業は今まさに大きなチャンスと言えます。その主な理由をまとめると、次のとおりです。

  • 需要拡大と市場成長性: 発達障害児の数は増加傾向にあり、それに伴って療育ニーズも右肩上がりで拡大しています。現在8〜9%の児童が特別な支援を要するとされ、早期療育の重要性は社会的にも認知が高まっています。利用児童数の増加データが示すとおり、市場は今後も成長が見込まれ、参入によるビジネスチャンスが大きい分野です。
  • 公的支援による安定収益: 国の給付金制度により収入の大半が公費で賄われ、利用料未収等のリスクが低いビジネスモデルです。報酬制度・加算制度を活用することで安定した収益が期待でき、厚労省調査でも平均5.8%の利益率が示されるなど、福祉分野の中では比較的堅実な経営が可能な事業領域となっています。
  • 政策追い風と支援策の充実: こども家庭庁の発足や児童福祉法改正など、政府は障害児支援に積極的です。今後も補助金・助成金の拡充、人材育成支援、報酬改善など制度的なバックアップが期待できます。制度面の追い風は、新規開業者にとって大きな後押しとなるでしょう。
  • 社会的意義と企業価値向上: 発達障害児とその家族を支える事業は社会的ニーズが高く、地域社会への貢献度も大きい分野です。福祉サービスへの参入は企業のCSR(社会的責任)やSDGs達成への貢献にもつながり、自社のブランド価値向上や従業員の誇りにも寄与します。単なる営利事業に留まらず社会課題の解決に資するビジネスとして評価される点も、参入する価値と言えます。

もちろん、競争が激しいエリアへの出店や人材確保の難しさなど、乗り越えるべき課題も存在します。しかし、それらは事前の綿密な市場調査と戦略立案、そして質の高い支援サービスの提供によって克服可能です。むしろ需要に対して供給が不足している地域・領域に目を向ければ、大きなビジネスチャンスが広がっています。児童発達支援の開業は「社会貢献」と「ビジネスチャンス」の両立が可能な分野であり、今まさに参入する価値が高いタイミングだと言えるでしょう。最新の制度動向や地域ニーズを踏まえつつ、万全の準備でこの成長市場に飛び込むことをぜひ前向きに検討してみてください。成功すれば、安定した経営基盤のもとで多くの子どもと家庭を支えるやりがいある事業を展開できるはずです。児童発達支援事業所の開業は、今がまさに好機です。

参考資料(出典)

  • 厚生労働省『令和4年生活のしづらさなどに関する調査』結果の概要
  • 文部科学省『通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果』(平成24年度および令和4年度)
  • 厚生労働省 こども家庭局 障害児支援課 資料「障害児支援施策について」(令和6年7月)
  • 厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 障害児通所支援の在り方に関する検討会資料(第2回, 令和3年)
  • Kensei福祉「児童発達支援事業所の経営と市場動向」に関するコラム
  • Kaipoke開業支援コラム「放課後等デイサービス・児童発達支援の収益・利益率」
  • 厚生労働省『障害福祉サービス等報酬改定(令和6年度)』関連資料
  • 厚生労働省『障害児通所支援ガイドライン』(令和6年7月)