1. エグゼクティブサマリー
大阪府における児童発達支援事業所は、発達障害を持つお子様への支援ニーズの高まりを背景に、注目すべき市場となっています。本稿では、発達障害児数の増加傾向と、それに対応する支援事業所数の推移を分析し、新規参入の機会について考察します。分析の結果、大阪府では発達障害を持つお子様の数が顕著に増加しており、児童発達支援サービスの需要が急速に拡大しています。支援事業所数も増加傾向にあるものの、需要の伸びに対して供給が十分とは言えない現状が示唆されています。したがって、本稿では、大阪府への児童発達支援事業所への参入は、社会的な貢献と事業成長の両面において、有望な選択肢であるとの結論に至りました。市場の成長性、政府の支援体制、そして何よりも地域社会からの強いニーズを踏まえれば、今こそが児童発達支援事業への参入を検討する絶好の機会と言えるでしょう。
2. 大阪府における市場ニーズの高まり
2.1. 発達障害児の増加傾向
大阪府において、発達障害を持つお子様の数は年々増加の一途を辿っています。平成20年から平成30年の10年間で、自閉症・情緒障害の特別支援学級の学級数と在籍児童生徒数は2倍以上に増加し、支援学級全体に占める割合も大きくなっています 1。さらに、注意欠陥多動性障害、学習障害、自閉症を含む発達障害と診断された児童の数は、平成18年の6,894名(全体の16.6%)から令和1年には72,733名(全体の54.2%)へと、驚異的な増加を示しています 1。この数値は、発達障害に対する認識の高まりや診断技術の進歩も影響していると考えられますが、いずれにしても、専門的な支援を必要とするお子様の数が大幅に増加していることを示唆しています。
特別支援学級における在籍児童数の増加傾向は、他の調査からも裏付けられています。例えば、知的障害のある人で療育手帳を所持している人の数は、令和2年3月末時点で3,368人と増加傾向にあり、そのうち18歳未満の人が44.27%を占めています 2。また、通級による指導を受けている児童生徒数も年々増加しており、特に情緒障害、自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害の児童の増加が目立っています 3。これらのデータは、発達障害を含む様々な障害を持つお子様への支援ニーズが、教育現場においても顕在化していることを示しています。
全国的な視点で見ても、障害児・者の数は増加しており、2022年12月時点の推計では1,164万6,000人と、5年前の前回調査に比べて24.3%増加しています 4。特に知的障害や発達障害に対する認知度が上がり、手帳を取得する人が増えたことが、この増加の一因として考えられています 4。国内の小中学生においては、1クラスに3人が発達障害を持つ可能性があるという推計もあり 5、発達支援の必要性が社会全体で高まっていることが伺えます。大阪府においても、この全国的な傾向と同様に、発達障害を持つお子様の増加が進んでいると考えるのが自然でしょう。
2.2. 政府および社会の支援体制
このような発達障害児の増加に対応するため、政府や自治体も様々な支援策を講じています。平成24年以降、児童発達支援や放課後等デイサービスの利用者数及び事業所数は飛躍的に増加しており 6、これは政府がこれらのサービスを積極的に推進していることの表れと言えます。児童発達支援は、日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、集団生活への適応訓練など、発達に必要な支援を行うものであり、その重要性はますます高まっています 7。
大阪府においても、発達支援拠点が様々な通所支援事業所への機関支援を実施しており、令和3年度からは学校への支援も開始しています 6。これは、地域全体で発達障害児を支援する体制を強化しようとする動きを示しています。児童発達支援センターは、地域の中核的な支援施設として、通所利用の障害児への療育やその家族に対する支援を行うとともに、地域の障害児やその家族の相談支援、障害児を預かる施設への援助・助言を行う役割を担っています 7。このような政府や自治体の取り組みは、児童発達支援事業への参入を検討する企業にとって、追い風となるでしょう。
3. 大阪府における市場機会の分析
3.1. 市場規模の定量化
前述の通り、大阪府における発達障害を持つお子様の数は増加しており、それに伴い児童発達支援サービスの需要も高まっています。大阪府全体で見ても、発達支援サービスへのニーズは増加傾向にあることが確認されています 9。この明確な需要の増加は、新規参入を検討する企業にとって、大きな市場機会を示唆しています。
3.2. 競合状況の分析
大阪府における児童発達支援事業所の数は、需要の増加に対応するように増加傾向にあります。平成24年の法改正以降、児童発達支援事業所数は飛躍的に増加しており 6。大阪府内全体で見ると、障害児通所支援事業所は5年間で1,847事業所増え、約1.8倍に増加しています 10。令和3年(2021年)の時点で、大阪府には1,412の児童発達支援事業所が存在していました 11。令和2年(2020年)には977事業所であったことから 12、1年間で大幅な増加が見られます。
一方、大阪市においては、児童発達支援センターの数は2019年から2023年の間で11箇所と比較的安定しています 13。しかし、保育所等訪問支援事業所は2019年の86箇所から2020年には102箇所に増加した後、60箇所に減少しており、重症心身障害児を支援する事業所数も変動が見られます 13。これは、地域によって、また支援の対象となる障害の種類によって、事業所数の充足状況が異なる可能性を示唆しています。
全国的に見ても、児童(0~6歳)1,000人当たりの児童発達支援事業所数は、平成26年度から令和元年度にかけて多くの都道府県で2倍以上となっており、大阪府においても同様の傾向が見られます 3。平成26年度には239箇所だった大阪府の事業所数は、令和元年度には862箇所にまで増加しています 3。また、全国の児童発達支援事業所数は、2012年から2022年の10年間で約3.6倍に増加しており 14、大阪府においてもこの傾向と同様の成長が見られると考えられます。
これらのデータから、大阪府における児童発達支援事業所の数は増加しているものの、発達障害を持つお子様の数の増加に依然として追いついていない可能性が考えられます。特に、地域や支援対象となる障害の種類によっては、まだ十分にサービスが提供されていない領域が存在するかもしれません。したがって、市場への新規参入の余地は十分にあると言えるでしょう。
表 1: 大阪府における発達障害児数の推移
年次 | 自閉症・情緒障害 特別支援学級数 | 自閉症・情緒障害 特別支援学級 在籍児童生徒数 | 発達障害児数(ADHD, LD, 自閉症) | 全児童生徒に占める発達障害児の割合 |
H18 (2006) | – | – | 6,894名 | 16.6% |
H20 (2008) | 13,852学級 | 43,702名 | – | – |
H30 (2018) | 27,429学級 | 122,836名 | – | – |
R1 (2019) | – | – | 72,733名 | 54.2% |
出典:1
表 2: 大阪府における児童発達支援事業所数の推移
年次 | 大阪府 児童発達支援事業所数 |
R2 (2020) | 977箇所 12 |
R3 (2021) | 1,412箇所 11 |
出典:11
4. 参入に向けた規制および運営の枠組み
4.1. 法的および規制要件
大阪府で児童発達支援事業所を開業するためには、法人格を有していることが必須であり、株式会社、合同会社、NPO法人など、いずれかの法人を設立する必要があります 15。既存の法人が事業に参入する場合は、定款の事業目的欄に「児童福祉法に基づく児童発達支援事業を行う」旨を追記する変更手続きが必要です 16。
事業を開始するためには、大阪府または事業所所在地の市町村(大阪市、堺市、豊中市、吹田市、八尾市、守口市、高槻市、枚方市、寝屋川市、大東市、箕面市、池田市、茨木市、摂津市など)から指定を受ける必要があります 15。指定申請を行う前に、多くの場合、事業計画や準備状況について、管轄の行政機関との事前協議が求められます 20。
事業所には、管理者と児童発達支援管理責任者を必ず配置する必要があります 15。児童発達支援管理責任者は、所定の資格要件(研修受講や実務経験)を満たす常勤の職員である必要があります 15。その他、利用定員に応じて保育士または児童指導員などの従業員を配置基準に従って確保する必要があります 15。
施設基準としては、指導訓練室(利用者一人あたり2.47㎡以上の面積が必要 15)、相談室、遊戯室(利用者一人あたり床面積1.65㎡以上 18)、事務室、トイレ、洗面所など、事業に必要な設備と備品を整備する必要があります 15。消防法や建築基準法などの関連法規も遵守する必要があります 37。
運営基準としては、利用者ごとに個別支援計画を作成し、サービス内容や手続きについて説明を行い、同意を得る必要があります 16。また、従業者の勤務体制、非常災害対策、衛生管理、虐待防止など、運営に関する様々な基準を遵守することが求められます 16。
4.2. 運営上の重要な基準とガイドライン
児童発達支援事業においては、障害のあるお子様が日常生活における基本的な動作や知識技能を習得し、集団生活に適応できるよう、個々の状況に応じた適切かつ効果的な指導及び訓練を行うことが求められます 8。児童発達支援センター以外の事業所では、児童指導員または保育士が10名に対して2名以上の配置が必要であり、そのうち1名以上は常勤でなければなりません 7。
児童発達支援センターは、通所利用の障害児への療育やその家族への支援に加え、地域全体の障害児支援の中核的な役割を担います 7。そのため、児童指導員及び保育士の総数は、指定児童発達支援単位ごとに、おおむね障害児の数を4で除して得た数以上が必要とされています 7。
5. 財務予測と投資検討
5.1. 予想される初期投資費用
児童発達支援事業所の開業には、初期投資として数百万円から数千万円規模の資金が必要となる可能性があります 54。主な費用項目としては、法人設立費用、物件取得費(賃料、敷金、礼金など)、内装工事費、車両購入費(送迎用)、備品・設備費(療育に必要な玩具、家具、事務機器など)、人件費(開業準備期間のスタッフ給与)、保険料などが挙げられます 54。物件の状態(居抜きかスケルトンか)や規模によって、内装工事費が大きく変動する可能性があります 54。送迎サービスを行う場合は、車両の購入またはリース費用も考慮に入れる必要があります 54。
表 3: 予想される初期投資費用(例)
費用項目 | 費用目安(万円) |
法人設立費用 | 25~30 54 |
物件関連費用(賃貸、内装工事等) | 200~500 54 |
車両費用 | 100~500 54 |
備品・設備費用 | 100~300 54 |
人件費(開業準備期間) | 60~100 54 |
その他(申請手数料、広告費等) | 25~50 54 |
合計 | 510~1480 |
注:上記はあくまで一例であり、物件の規模や地域、選択するサービス内容等によって大きく変動します。運転資金として、さらに数ヶ月分の運営費用を確保しておくことが推奨されます 54。
5.2. 潜在的な収益源
児童発達支援事業の主な収益源は、国や自治体からの給付金です 14。利用者は、サービス費用の1割程度を自己負担しますが、世帯収入に応じて上限額が設定されています 14。児童発達支援においては、3歳から5歳の未就学児の利用料が無償化されているため、事業者は報酬の全額を国保連に請求することになります 14。給付金は、サービス提供月の約2ヶ月後に入金される仕組みとなっています 14。全国的に見ても、児童発達支援の費用額は令和2年度で約1,455億円、放課後等デイサービスの費用額は約3,723億円と、いずれも増加傾向にあり 64、市場の成長が期待できます。
5.3. 収益性分析
児童発達支援事業の収益性は、施設の運営状況や利用率によって大きく左右されます。令和4年度の経営実態調査によると、児童発達支援事業所の収支差率(利益率)は平均で5.8%となっています 65。ただし、事業所によって利益率にはばらつきがあり、効率的な運営や加算の取得などによって収益性を高めることが可能です 14。放課後等デイサービスを併設することで、より高い収益率が期待できるというデータもあります 66。安定した収益を確保するためには、質の高い支援を提供し、利用者を増やすこと、適切な人員配置を行い人件費を抑えること、そして取得可能な加算を積極的に算定することが重要です 59。
6. 市場参入と運営成功のための戦略
6.1. 成功のための主要因
児童発達支援事業で成功するためには、質の高い支援を提供し、利用者の満足度を高めることが最も重要です 59。お子様一人ひとりの発達段階や特性に合わせた個別支援計画を作成し、きめ細やかな療育を行うことが求められます 19。保護者との信頼関係を築き、日々の状況や成長を共有することも不可欠です 59。安全で安心できる環境を提供することも、保護者が安心して利用できるための重要な要素です 71。
専門的な知識と熱意を持った質の高いスタッフを確保し、定着させることも成功の鍵となります 39。特に、児童発達支援管理責任者は、事業運営の中核となる存在であり、適切な人材の確保が重要です 39。効果的な集客活動を行い、利用者を確保することも重要です。地域特性やニーズを把握し、他の事業所との差別化を図る必要があります 59。
6.2. 競争優位性を確立するための提言
競争の激化が予想される中で、他社との差別化を図ることが重要です。特定の障害種別やニーズに特化した療育プログラムを提供する、送迎サービスや延長保育など、働く保護者のニーズに対応したサービスを提供する、ICTを活用して療育の質や運営効率を高める、などが考えられます 55。重症心身障害児や医療的ケアが必要な子どもに特化することで、高いサービス単価と競合の少ない市場で事業展開に成功している事例もあります 80。また、質の高いスタッフを育成し、働きやすい環境を整備することで、人材の定着を図り、サービスの質を向上させることができます 39。
6.3. 地域社会との連携構築
地域の保育園、幼稚園、小児科などと積極的に連携し、事業所の認知度向上や利用者の紹介につなげることが重要です 59。地域のイベントに参加したり、保護者向けの相談会や勉強会を開催したりすることも、地域社会との良好な関係を築く上で有効です 52。他の関連機関や支援サービスとも連携し、包括的な支援ネットワークを構築することも、利用者の満足度向上につながります 59。
7. 結論:市場参入の推奨
本稿の分析結果から、大阪府における児童発達支援事業への参入は、非常に有望な機会であると言えます。発達障害を持つお子様の数は増加の一途を辿っており、それに対応する支援サービスの需要は今後も拡大していくことが予想されます。競合となる事業所数も増加傾向にあるものの、需要の伸びに対して供給はまだ十分とは言えず、特に地域や支援対象となる障害の種類によっては、未充足のニーズが存在する可能性があります。
政府や自治体も児童発達支援サービスの重要性を認識し、様々な支援策を講じており、法規制や運営に関する情報も比較的容易に入手可能です。初期投資は一定規模必要となるものの、安定した政府からの給付金が主な収益源となるため、適切な運営を行えば、収益性の確保も十分に可能です。
市場参入にあたっては、質の高い個別支援の提供、保護者との信頼関係構築、安全な環境整備、専門性の高いスタッフの確保、効果的なマーケティング、法令遵守、そして効率的な財務管理が成功の鍵となります。また、地域社会との積極的な連携を図り、他社との差別化戦略を打ち出すことで、競争優位性を確立できるでしょう。
以上の分析を踏まえ、貴社が大阪府の児童発達支援市場への参入を積極的に検討されることを強く推奨いたします。綿密な計画と適切な戦略を実行することで、社会貢献と事業成長の両立が実現可能となるでしょう。