不登校支援勉強会レポート:オンラインフリースクール運営から見えた現状と支援のポイント

不登校勉強会 不登校支援

このブログでは、NPO法人ここのばが主催したオンライン勉強会「不登校支援勉強会」の模様をお伝えします。この勉強会では、オンラインフリースクールの運営を通じて見えてきた不登校支援の現状について、講演者の方のお話がありました。

勉強会の概要と不登校の現状

勉強会は、オンラインフリースクールを運営するNPO法人ここのばの代表が、その経験を通じて感じたことや現状分析を共有する目的で開催されました。時間は約40~45分が講演、その後に質疑応答という構成で行われました。

まず、不登校の現状について最新の統計データが示されました。

  • 令和5年度(2023年度)の不登校児童生徒数は合計で約35万人です。前年度の約30万人から約4~5万人増加しており、増加傾向にあることがグラフからも明らかです。
  • 平成29年(2017年)の教育機会確保法が施行された頃から増加が始まり、さらに令和2年(2020年)のコロナ禍以降は増加の傾斜が急になっています。
  • 学種別に見ると、中学校が6.7%、小学校が2.1%(全体で3.7%)となっており、中学校での不登校が特に多い現状です。
  • 過去のデータを見ると、平成10年頃にも不登校数は増加していますが、これは欠席日数の定義が50日以上から30日以上に変更されたことが主な要因です。
  • 最新のデータでは、年間30日以上休んでいる不登校の子どもの中で、欠席日数が多い層(90日以上)の割合が、8年前と比べて大きく変わっていません。これは、比較的短い欠席の子どもだけでなく、長期欠席の子どもも同じ割合で増えていることを示唆しており、不登校の状況が複雑化していることが考えられます。

不登校増加の要因分析

不登校の増加要因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。講演では、要因を「外部環境」「学校・行政」「家庭」「子ども自身」の4つに分解して分析されていました。

  • 外部環境(社会):
    • かつてのような明確な「レール」(例:小・中学校→高校→大学→就職)が社会からなくなりつつあり、自分で人生のレールを築く必要性が高まっています。
    • 社会の変化により選択肢が増えたことは不満を減らす一方で、不安を大きくする側面があります。
    • 学歴自体の意義も、相対的に見て以前よりは低下していると言われます。
  • 学校・行政:
    • 教育機会確保法の施行により、学校以外の学びの場も大切にしようという考え方が広まりました。
    • フリースクールや自宅での学習活動が校長先生の判断で出席扱いになる通達も出ており、学校に毎日行くことへのプレッシャーが緩和されてきています。
    • 文部科学省や教育委員会も不登校への課題意識が高まっており、「心のプラン」や不登校特例校などの取り組みが進められています。
  • 家庭(保護者):
    • 女性の就労率が向上しています。
    • 晩婚化晩産化が進んでおり、特に晩産化は統計上も増加傾向にあります。
    • 晩産化と低体重出産の間には相関があると言われています。
  • 子ども自身(背景要因):
    • 発達障害の認識が拡大・浸透していること。発達障害者支援法(2004年)、特別支援教育の推進(2007年)、児童発達支援事業所や放課後等デイサービス(2012年)の整備 などにより、発達障害のある子どもへの理解や受け皿が進み、統計上の割合が増加している可能性があります。
    • 発達障害そのものが増えている可能性。低体重出産との相関 や、アメリカでの増加傾向 も指摘されていますが、原因特定は難しい状況です。
    • 発達障害に似た症状の増加。特に母親の常勤勤務による子どもの睡眠時間の短縮や、育児におけるスマートフォンの利用増加が、これらの症状と関連している可能性が一部の医師から指摘されています。現場の肌感覚としても、発達障害の認識拡大だけでは説明できない、配慮が必要な子どもの増加を感じるとのことです。

不登校のグラデーションと発達障害との関係

不登校の子どもは「不登校」という一言では括れない**グラデーション(多様な状況)**があります。欠席日数だけでなく、子ども一人ひとりの状況や抱える課題は異なります。

特に、長期欠席の不登校の子どもには発達障害の割合が高いと言われています。調査によって割合は異なりますが、5割を超えるという報告や、中には6~7割という報告もあります。ただし、発達障害だから必ず不登校になるわけではありません。

講演者が運営するオンラインフリースクールに通う長期欠席の子どもの特徴として、知能検査(WISC-IV)の結果から興味深い傾向が見られました。

  • 約9割以上の子どもが、視覚的に情報を理解したり空間を把握したりする**「視覚推理」の分野が非常に高い**(IQ120超えなど)。
  • 一方で、「処理速度」が低い傾向にあります。
  • 言語理解は高い子もいれば平均的な子もいますが、**視覚推理の高さと処理速度の低さの「大きな差」**が見られるのが特徴です。
  • この処理速度の遅さが、小中学校での複数人との会話など、素早い情報処理が必要な集団活動の困難さにつながり、学校に行きづらくなる要因の一つになっている可能性が推測されます。
  • また、これらの子どもたちは**「書くこと」が苦手な子が多い**という共通の傾向もあるそうです。

不登校の子どもの段階と支援のポイント

不登校の子どもは、回復に向けていくつかの段階を経ることがあります。

  • 初期: 学校に行かなくなった直後。意欲や自信が低下しており、昼夜逆転しやすい時期です.
  • 回復前期: 生活リズムが整い始め、十分な睡眠が取れるようになると、少しずつ外部との関心や外出への意欲が出てきます.
  • 回復後期: 家族以外の人との関わりを持ち始め、活動が習慣化してきます(例:ゲームに飽きてくる、学習欲が芽生えるなど).

これらの段階に応じて、周囲の関わり方や提供する環境を変えていくことが重要です。

不登校の子どもへの支援の重要なポイントとして、以下が挙げられました。

  • 個別最適: 一人ひとりの子どもの状況、特性、段階に合わせて、きめ細かく対応することが原則です.
  • 目標設定: 結果目標(テストで100点など)よりも活動目標(例:1日30分勉強するなど、自分でコントロールできる目標)を設定し、伴走することが効果的です.
  • 習慣化: 短い時間でも良いので、毎日続けることが定着しやすく、達成感にもつながります.
  • 他者との関わり: 家族以外の誰かとの関わりを持つことが、建設的な活動への意欲につながります. 最初は支援者との1対1の関わりから始め、徐々に子ども同士の関わりを増やしていくのが良いでしょう。特に長期欠席の子どもは、3人以上の集団だと難しさが出やすいため、2人程度の少ない人数での関わりがやりやすい方法です.
  • 支援者には、教科を教えるスキルだけでなく、子どもに**「やってみよう」という動機付けをするスキル**が求められます.
  • 「見守り・寄り添い」だけでは不十分なことがある。良い意味での放置にならないよう、子どもの生活基盤(特に睡眠リズム)など、必要な部分には踏み込んで関わる必要があります。ゲームやパソコン利用も、適切に制限することも検討すべきです.
  • 個別化: 特に長期欠席の子どもには、支援者対子どもが1対1や1対2といった、少ない人数での関わりが重要です.
  • 柔軟な進路・活動の選択肢: 「登校」か「復学」かという2択ではなく、授業だけ参加する、放課後等デイサービスに通うなど、子どもに合った多様な選択肢を視野に入れることが大切です.
  • 苦手分野の把握: 子どもが何に苦手意識を持っているのかを具体的に把握し、原因を分解して理解することで、得意な部分を活かした支援や、苦手な部分への適切なアプローチが可能になります.
  • かかりつけ医や服薬の検討: 睡眠障害など、医療的な介入が必要な場合もあります。かかりつけ医への相談や、必要に応じてメラトニンなどの服薬も選択肢として検討することが重要です.

質疑応答より

勉強会の中で出た質問とその回答の一部も紹介されました。

  • 食事や栄養面について:重要ではあるが、発達特性のある子どもは偏食傾向があるため、無理強いせず「食事をすること」自体を優先した方が良い場合がある。
  • メタバース教室について:アバター参加で顔出し不要など、参加のハードルを下げる点で有効。しかし、それ以上に個別化された活動(少ない人数での関わり)をどう運用するかが重要である。
  • 家庭の介入について:非常に難しいが、粘り強く関わっていくしかない。
  • 不登校児童本人の気持ちについて:不満はなくても、将来への不安(就職など)を抱えている子が多い。
  • 学校だけの解決は難しいか:100%無理であり、家庭(保護者)の協力が必須。保護者との関係性が非常に重要。
  • 病院に行くのも拒否する子について:そもそも外出自体をしない場合が多い。昼夜逆転など生活リズムの乱れが背景にあることが多いため、まず生活リズムを整えることからアプローチするのが有効な場合がある。
  • 保護者が「本人の意思に任せる」という考え方であることについて:「見守り」というスタンスだが、「放置」にならないよう、生活の基盤などには関わることが必要。保護者自体を責めるのではなく、不登校支援全体の構造的な問題とも言える。
  • 他人と繋がりたいと思わない子への支援:多くの子どもは誰かと関わりたい気持ちを持っている。関わるのが怖いという気持ちとのバランスの問題であり、全く欲求がないとは考えにくい。

まとめ

不登校の子どもへの支援は、増加する数だけでなく、その状況や背景が複雑化している現状を理解することが重要です。一律のマニュアル対応ではなく、一人ひとりの子どもの特性、状況、回復段階を見極め、個別最適化・個別化された支援を行うこと、家庭との連携、必要に応じた医療の視点 が不可欠であるという点が強調されました。特に、生活リズムの確立活動目標の設定と習慣化、そして安心できる他者との関わり が、子どもが回復し、次のステップへ進むための基盤となるようです。

この勉強会は、不登校の現状と要因、そして具体的な支援のあり方について、現場の視点からの貴重な知見を提供するものでした。